大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)43号 判決

大阪市中央区南本町一丁目6番7号

原告

帝人株式会社

代表者代表取締役

板垣宏

訴訟代理人弁理士

三中英治

三中菊枝

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

佐藤雪枝

宮本晴視

花岡明子

伊藤三男

主文

特許庁が、平成4年審判第13227号事件について、平成5年12月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年7月2日、名称を「仮撚加工法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭59-135257号)が、平成4年6月16日に拒絶査定を受けたので、同年7月16日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第13227号事件として審理したうえ、平成5年12月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年2月7日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

実質的にポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル繊維を仮撚加工する際に、第1ヒーターを適宜の曲率に沿ったガイドを具備し、且つ単一の温度に加熱された非接触ヒーターとし、その温度を350℃以上800℃以下、熱処理時間を0.04秒以上0.12秒以下に維持して仮撚加工することを特徴とする仮撚加工法

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、実願昭57-178764号(昭和59年5月18日公開・実開昭59-73378号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)及び特開昭54-131059号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて、容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由のうち、引用例1の記載事項の認定は認める。引用例2の記載事項の認定は、「捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例などが示されている」(審決書4頁4~6行)との点を否認し、その余は認める。

本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定は認めるが、相違点の判断は争う。

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本願発明の奏する格別の作用効果を看過した(取消事由2)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点についての判断の誤り)

(1)  審決は、引用例2には、「糸の進行方向に沿ってヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行ったところ、捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例などが示されている。」(審決書3頁19行~4頁6行)としているが、誤りである。

引用例2(甲第4号証)には、合成繊維の熱処理、特に高速仮撚における熱セットに関し、短時間で糸条を昇温、セットし、かつ均質な、捲縮糸を得ることを目的とした非接触式の熱処理装置に係る発明が記載されているが、その発明は特許請求の範囲第1項に示されるとおり、「糸の進行方向に沿つてヒーターを少なくとも2つに分け、前半部は糸の融点以上の高温で非接触式となし、後半部は前半部より低い温度に設定したことを特徴とする糸条の熱処理装置」に係る発明(以下、「引用例発明2」という。)であって、本願発明とは全く異なる技術思想に立つものである。

審決認定の上記「糸の進行方向に沿ってヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行った」ものは、引用例2の第1表(同号証7欄)に、No.3として示されているものであるが、No.3は「後半部は前半部より低い温度に設定する」との引用例発明2の構成要件を欠いた事例であって、同発明の目的を達成しない悪例(比較例)として記載されているにすぎず、「捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例」として記載されたものではない。

すなわち、第1表のNo.1は、引用例発明2の実施例であり、これにつき、「第1表よりNo.1の場合に捲縮率及び染斑ともに良好な糸が得られることが解る」(同6欄15~16行)として、No.1の染点が4級であると評価されているのに対し、No.3の染点は3級であり、本願発明の属する技術分野では不合格品であることは当業者に明らかである。本願発明の発明者の一人である黒田俊正が上記実施例1を追試した実験報告書(甲第5号証)からも、第1表のNo.3、No.4のものは、横方向に延びる筋目が縞状に表れ、染斑の大きいものになっていることが認められ、当業者であれば、このような追試により、同じ技術知識を容易に入手でき、No.3のものは比較例であり、染斑があって良好なものでないと当然に認識する。

被告は、引用例発明2の実施例2(甲第4号証8欄第2表)に示された3.5~4級のものも良好なものとして示されているから、3級のものが不合格であるとはいえないと主張するが、一般的な染斑の測定方法では、5級から1級までのランクにおいて、染斑の大きいほど、染点の評価が低くなる。5級が最良の製品であり、4級は専門家であれば認識できるが素人には分からない程度の染斑があるものの充分商品とできるものであり、3級は素人でも認められる染斑があり、商品とした場合には「キズあり」とされ、正規の商品として扱われないランクである。

(2)  審決は、「引用例1の非接触式で熱処理してポリエステルを仮撚り加工する際に、引用例2で示されたポリエステルの非接触式の熱処理条件を適用するようなことは当業者にとって容易に推考することができたものと認められる。」(審決書5頁14~18行)と判断しているが、誤りである。

引用例1には、本願発明の構成要件である温度、時間についての開示も示唆もなく、また、その目的とするところは捲縮率の向上である。一方、引用例2には、本願発明の温度範囲、時間範囲の中の一点について、たまたま記載されているが、この点で処理した結果は、上記のとおり、染斑の多い悪い例として記載されているにすぎない。引用例発明2は、この染斑の問題をなくすことを課題として、ヒーターを2段階とし、その前半部を高くし、後半部を低くするという特定の温度関係としているのであり、引用例2には、第1ヒーターが適宜の曲率に沿ったガイドを具備していることも開示されていない。

被告の提示する実願昭48-21871号(実開昭49-119552号)、実願昭50-139460号(実開昭52-58156号)、実願昭和52-26913号(実開昭53-122447号)の各マイクロフィルム(乙第2号証~第4号証)には、適宜の曲率に沿ったガイドを具備した特別な構成の第1ヒーターを用いることについての開示はなく、引用例発明1のヒーターを採用することについての開示も示唆もなく、特定の処理条件を組合せることの開示もない。

したがって、当業者であれば、引用例2に悪例として記載された処理条件(No.3)を、引用例発明1に適用するようなことは、行わないことが明白であり、これを容易であるということはできない。

2  取消事由2(本願発明の格別の作用効果の看過)

審決は、「上記構成をとることによる効果も格別なものとは認められない。」(審決書5頁19~20行)と判断しているが、誤りである。

本願発明は、その要旨に示された構成を採用することにより、セット時間と温度の関係を明確にし、また、バルーニング規制をも提供したので、高温非接触ヒーターを初めて実用化できるようになるとともに、捲縮率及び染斑ともに良好な糸が得られなかった処理条件(引用例2のNo.3)のもとでも、捲縮率及び染斑ともに良好な糸が得られるようになったという格別の効果を奏するものであり、このような効果は、各引用例に記載された発明の奏する効果に比較して、格別なものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  審決認定の引用例2記載の処理条件が、引用例2の第1表のNo.3についての処理条件であること、この処理条件のうち、ヒーターの温度条件が、引用例発明2のヒーターの温度条件に該当しないことは認める。

引用例2には、実施例1として、第1表にNo.1~4のデータが示され、「No.1の場合に捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られることが解る」と記載されているが、これ以外の場合については、良好か否かの言及はない。実施例2では、染点として3.5~4級のものが良好なものとされているから、No.3のものが不合格であるということはできず、当業者が染点3のものを直ちに劣悪と評価するとはいえない。

第1表におけるNo.3についてみると、捲縮率は29%であって、No.2のものより良好であり、さらに、No.1のものとほぼ同等である。また、染点は、上記のとおり良好なものとされているものとほぼ同じである。このことからすると、No.3は、引用例発明2の効果を明確にするために示された比較例として、従来例又はそれに準ずるものとみるべきであって、引用例発明2の特殊な加熱条件と対比するための通常の加熱条件として記載されているとみるのが相当である。

したがって、審決の、引用例2の記載事項の認定について誤りはない。

(2)  本願発明において、ヒーター温度とセット時間とが、捲縮率を高め、染斑を発生しにくくするという効果に対応し(甲第2号証の1、5欄40行~6欄9行)、ガイドは、バルーニング防止のために必要とされている(同5欄9~11行)。

そして、上記のとおり、引用例2の実施例1のNo.3のものは、その処理条件により、良好な結果が得られており、引用例1には、非接触式ヒーターに糸条が曲線状に走行するようにしたガイドを設けてバルーニングによる撚遡及の阻害やその風損による熱効率の低下によって十分な捲縮が得難いという問題を解決することが示されている。また、実願昭48-21871号(実開昭49-119552号)、実願昭50-139460号(実開昭52-58156号)、実願昭和52-26913号(実開昭53-122447号)の各マイクロフィルム(乙第2号証~第4号証)によれば、合成繊維糸状の仮撚加工において、ヒーター部でバルーニングが発生すると加工糸の捲縮性とともに染色性が不均一になるということは本願出願前周知であり、そこでヒーター部にバルーエングを規制するためにガイド部を設けることも本願出願前周知の事項であった。

したがって、審決が、引用例2に記載の処理条件を引用例発明1に適用することは、当業者にとって容易に推考することができたものと判断したことに、誤りはない。

2  取消事由2について

引用例発明1の彎曲ガイドを具備した非接触式ヒーターを用いてポリエステル糸を仮撚加工するに際して、引用例2の第1表のNo.3として開示されている処理条件を適用すれば、上記彎曲ガイドを用いたことによるバルーニングの防止に起因する染斑の防止の効果ともあわせて良好な結果が得られるであろうことも当業者が容易に予測できることである。そして、本願発明においては、捲縮率及び染斑ともに良好な糸が得られることを効果としているが、染点として数値で表しているわけでもないから、引用例2のNo.3のものと比較して格別であるとする根拠もない。

したがって、審決の本願発明の奏する効果も格別のものではないとの判断にも誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点についての判断の誤り)について

(1)  審決が引用例2の記載事項として認定した「この装置は、糸の進行方向に沿ってヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行った」との処理条件は、引用例2の第1表のNo.3に係る処理条件であること、この処理条件のうち、ヒーターの温度条件が、引用例2の特許請求の範囲第1項に記載された「糸の進行方向に沿つてヒーターを少くとも2つに分け、前半部は糸の融点以上の高温で非接触式となし、後半部は前半部より低い温度に設定したことを特徴とする糸条の熱処理装置」に係る発明(引用例発明2)の温度条件に該当しないことは、当事者間に争いがない。

引用例2(甲第4号証)によれば、引用例発明2は、上記の構成を採用することにより、「ヒーター前半部での糸の昇温曲線の立上り時間を短縮し、しかもヒーター後半部での糸の昇温曲線の勾配はゆるやかになるのでヒーター出側の糸温度をコントロールしやすく染斑等を発生する事なく、セット時間の大巾の短縮が前能である」(同号証5欄16行~6欄1行)との効果を得るものであり、引用例発明2の上記構成と、その第1表(同7欄)の記載によれば、そのNo.1、No.2はいずれも、後半部のヒーター温度(いずれも300℃)が前半部の温度(No.1が500℃、No.2が400℃)より低く設定されているから、引用例発明2の実施例を示すものであるのに対し、No.3は、後半部の温度が前半部と同じ500℃であり、No.4は、後半部の温度(500℃)が前半部の温度(300℃)より高く設定されているから、いずれも、引用例発明2の実施例ではなく、比較例を示すものであると認められる。そして、実施例であるNo.1、No.2においては、捲縮率がそれぞれ31%、25%、染点がいずれも4級であるのに対し、比較例であるNo.3、No.4においては、捲縮率がそれぞれ29%及び20%、染点がいずれも3級であること、第1表に関し、「第1表よりNo.1の場合に捲縮率及び染斑ともに良好な糸が得られることが解る。」(同6欄15~16行)と記載されていることが認められる。

上記事実によれば、No.3に示された比較例は、No.1に示された実施例より捲縮率及び染点において劣り、No.2に示された実施例より染点において劣ると認められ、引用例2の記載上、このNo.3の比較例が、「捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例」として、挙げられていると認めることはできない。

また、引用例発明2の実施例2を示す第2表(同8欄)には、後半部の温度を240℃とし、前半部の温度をこれよりいずれも高い温度(400~800℃)としたNo.1~No.5の5つの例が記載されており、その染点は、No.1~No.4が4~4.5級、No.5が3.5~4級であり、第2表に関し、「第2表より前半部のヒーター温度は500℃以上が好ましいことが理解されよう。」(同7欄15~16行)と記載されていることが認められる。この記載に照らしても、染斑等の発生防止を意図した引用例発明2の処理条件に従った実施例2のいずれのものよりも、この処理条件に従わない上記第1表のNo.3のものは、染点において劣るものと理解される。

したがって、審決が、「ヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行ったところ」(審決書3頁20行~4頁4行)との認定に続けて、「捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例などが示されている。」(4頁4~6行)と認定したことは、誤りというべきである。

(2)  引用例2(甲第4号証)には、引用例発明2が前示構成を採用した理由につき、「ヒーターを糸の進行方向に沿つて少くとも2つに分け、前半部は糸の融点以上の高温状態にしておいて糸を非接触で走らせて急速に加熱し、後半分は前半部より比較的低い温度にしてヒーター出側に於ける糸温度が捲縮の付与に必要な温度、即ちポリエステルの場合は190℃の近辺になる様にして、セット時間を短縮すると同時に染斑や強度低下等を防止するものである。」(同号証3欄6~14行)、「ヒーター内に於ける糸の昇温曲線(ロ)は一般に第3図に示す様になり、所定の温度(イ)に達する迄に0.15~0.2秒必要である。この時間を短縮する為にヒーター温度を糸の融点以上の高温にすると糸の昇温曲線(ロ)は第4図に示す様に昇温時間は短縮出来るがヒーター出側付近での昇温曲線の勾配が急である為にヒーター出側での糸温度を捲縮に必要な温度にコントロールしにくく、染斑等が発生しやすい。それ故、ヒーターを少くとも2分割し前半部のヒーター温度(イ)を高温にして、第5図に示す様に昇温曲線の立上り部の勾配を急にして立上り時間を短縮させ後半分のヒーター温度(イ)を捲縮に必要な温度よりわずか高い温度にしてヒーター出側での糸の温度勾配をゆるやかにし、糸温度(ロ)を捲縮に必要な温度に合致しやすくさせて染斑等を防止するのが本発明のものである。」(同3欄15行~4欄11行)と記載されている。

この記載と、前示のとおり、引用例発明2の実施例に当たる引用例2の第1表No.1、No.2の後半部の温度がいずれも300℃であり、第2表の実施例2の後半部の温度がいずれも240℃であることに照らせば、その第1表No.3の比較例の後半部の温度500℃は、ヒーター出側において、ポリエステル繊維の捲縮に必要な190℃をはるかに超えた温度にまで繊維を加熱する温度であって、捲縮のためには不適当であり、染斑が発生しやすい温度として、記載されているものと認められる。

すなわち、審決認定の前示「ヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行った」との処理条件は、引用例2の記載による限り、ポリエステル繊維の仮撚加工において、捲縮のためには不適当であり、染斑が発生しやすい温度として、むしろ採用しては不利な処理条件と認識されるものといわなければならない。

そうすると、ポリエステル繊維の仮撚加工における染斑の低減を目的として、引用例発明1に、引用例2記載の上記処理条件を適用しようとすることは、引用例2の開示するところを前提とする限り、当業者として通常は考えないことと認められ、両者を組み合わせれば、ポリエステル繊維の仮撚加工における染斑の低減の目的が達成されると想到することが容易であるというためには、これを理由づけるに足りる特段の事実が必要というべきである。

しかし、審決は、引用例発明1に引用例2記載の上記処理条件を適用することが容易である理由としては、「引用例2には、ポリエステルフイラメントを非接触式で熱処理して仮撚り加工する際に、本願方法に含まれる処理条件(たとえば、・・・熱処理温度500℃、処理時間0.06秒)で処理すると捲縮率、染斑ともに良好なものが得られることなどが示されており」(審決書5頁8~14行)と述べるだけで、それ以上の特段の事実は何ら摘示していないことは、審決の理由の記載から明らかであり、本件証拠上も、この特段の事実を認めるに足りる資料はない。

審決のこの引用例2の記載内容の認定が誤りであることは前示のとおりであるから、帰するところ、審決は、引用例2の記載内容の誤認に基づき、それ以上に何らの理由なくして、引用例発明1に引用例2記載の上記処理条件を適用することが容易であると判断したものであって、審決には理由不備の瑕疵があり、違法として取消しを免れないというべきである。

被告が種々主張するところが採用できないことは、以上の説示に照らし、明らかである。

2  以上のとおりであるから、取消事由2について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成4年審判第13227号

審決

大阪府大阪市中央区南本町1丁目6番7号

請求人 帝人株式会社

東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル 帝人株式会社内

代理人弁理士 前田純博

昭和59年特許願第135257号「仮撚加工法」拒絶査定に対する審判事件(平成2年12月18日出願公告、特公平2-60769)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和59年7月2日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告され、平成3年10月22日付けの手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの

「(1)実質的にポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル繊維を仮撚加工する際に、第1ヒーターを適宜の曲率に沿ったガイドを具備し、且つ単一の温度に加熱された非接触ヒーターとし、その温度を350℃以上800℃以下、熱処理時間を0.04秒以上0.12秒以下に維持して仮撚加工することを特徴とする仮撚加工法。」

にあるものと認める。

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭57-168764号(実開昭59-73378号)のマイクロフイルム(以下、引用例1という。)には、

仮撚または延伸仮撚中の合成繊維糸条を加熱する非接触式加熱装置において、加熱壁面によって囲まれた糸条通路内に複数個の糸導ガイドを設けて糸条が加熱壁面から離れた位置を曲線状に走行するようにした合成繊維仮撚糸の加熱装置

が図面とともに記載され、ここで、この装置は、従来からの非接触式加熱装置が有する〈1〉装置内で糸条が振動(パルーニング)をおこして十分な撚遡及が行われなかったり、〈2〉またその風損などのために熱効率が下がって十分な捲縮が得がたいという問題を解決するためになされたものであり、高速加工が可能であるなどの利点があることなどが示されており、

また、特開昭54-131059号公報(以下、引用例2という。)には、

合成繊維の熱処理、特に高速仮撚の熱セットに関し、短時間で糸条を昇温、セットし、かつ均質な捲縮糸を得るための非接触式の熱処理装置が図面とともに記載され、ここで、この装置は、糸の進行方向に沿ってヒーターを2つに分け、ポリエステルフイラメントの場合それぞれの温度が500℃、前半部と後半部のそれぞれの長さ300mm、加工速度600m/分、延伸倍率1.5倍で仮撚加工を行ったところ、捲縮率および染斑ともに良好な糸が得られた実例などが示されている。

そこで、本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。

引用例1記載の非接触式加熱装置で糸条通路内に複数個の糸導ガイドを設けて糸条が曲線状に走行するようにしてある(第1図参照)から、この糸導ガイドの設け方は、適宜の曲率に沿ったガイドを具備した非接触ヒーターという本願の構成と一致しているし、引用例1では加熱は特に温度勾配をつけて行うなどという記載がないから単一の温度で行われているとみるべきであるから、この点も本願と同じである。

そうすると、本願も引用例1もともに、ポリエステル繊維を仮撚加工する際に、第1ヒーターを適宜の曲率に沿ったガイドを具備し、かつ単一の温度に加熱された非接触ヒーターとして仮撚加工する仮撚加工法の点で一致しているが、本願ではヒーターの温度を350℃以上800℃以下、熱処理時間を0.04秒以上0.12秒以下に維持して行うというのに対し、引用例1の発明ではこの点明記されていない点で両者は一応相違している。

しかしながら、引用例2には、ポリエステルフイラメントを非接触式で熱処理して仮撚り加工する際に、本願方法に含まれる処理条件(たとえば、原審で説示したように、熱処理温度500℃、処理時間0.06秒)で処理すると捲縮率、染斑ともに良好なものが得られることなどが示されており、引用例1の非接触式で熱処理してポリエステルを仮撚り加工する際に、引用例2で示されたポリエステルの非接触式の熱処理条件を適用するようなことは当業者にとって容易に推考することができたものと認められる。

そして、上記構成をとることによる効果も格別なものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例1および引用例2にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明することができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年12月16日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例